ヤマハ新旗艦スピーカー「NS-5000」、“最終音質”で披露。7月下旬出荷
NS-5000は、ヤマハの新しいフラグシップスピーカーとして、昨年9月に開発が発表されていたモデル。発表直後の「2015東京インターナショナルオーディオショウ」でも開発中のデモ機が披露されたが、さらにそこから半年以上のチューニングを経て、正式な製品版が完成した形となる。既に6月1日より予約受付を開始しており、7月下旬の出荷開始を予定している。価格は75万円(税抜・1台)で、ペア販売。発売に先駆けて、ヤマハでは全国キャラバンも実施中だ。
製品披露会の冒頭で挨拶した(株)ヤマハミュージックジャパン AV・流通営業本部 本部長 岡田豊氏によれば、ヤマハ製品で名称に“NS”がつく第1号のスピーカーは1968年に誕生。NSは“ナチュラルサウンド”の略とのことで、今回のNS-5000はこの思想を受け継ぎながら、“次世代のナチュラルサウンド”をコンセプトに掲げている。
岡田氏は「NS-5000は、2008年から実に8年もの歳月をかけて開発したスピーカー。昨年のインターナショナルオーディオショウでの披露を皮切りに、全国のオーディオ専門店で試聴イベントを行い、試聴者からのフィードバックを都度反映させる形で何度もチューニングを繰り返してきた。こういう製品の開発プロセスは、私が知る限りではじめての試みだった」とコメント。「NS-5000の音を通じて、ヤマハのHi-Fiブランドをもっと輝かせていきたい」と語った。
■“昨年の発表時から何度もチューニングを繰り返して完成”
その仕様は、ヤマハが1974年に発売したモニタースピーカー「NS-1000M」を彷彿とさせるユニット配置を採用した3ウェイ・バスレフ型。本体サイズは395W×690H×422Dmm(突起部含む)としている。開発を担当したヤマハの安井信二氏は「見た目はNS-1000Mを彷彿とさせながら、中身は全く別物」とアピール。加えて「昨年の発表時から何度もチューニングを繰り返し、インターナショナルオーディオショウに出展したデモ機からはかなり音が変わった」と述べた。
開発コンセプトは上述の通り、“ヤマハによる新しいナチュラルサウンドの提案”。安井氏は「スピーカーでいかに自然な音を実現できるかに取り組んだ。そのため、スピーカーの理想型として、音色・音速が揃ったフルレンジの再生をマルチウェイで実現しようと思った」と製品開発時を振り返る。
■新素材「Zylon」を全振動版に採用。3ウェイでフルレンジ再生のような音色を目指した
内部には、3cm口径のトゥイーター、8cm口径のミッドレンジ、30cm口径のウーファーを搭載する。クロスオーバー周波数は750Hz/4.5kHz。再生周波数は23Hz~40kHzで、許容入力は200W、出力音圧は88dB/m/2.83V。インピーダンスは6Ω(最小3.2Ω)となる。フィルター特性はトゥイーターが-18dB、ミッドレンジが12dB(Low)/-6dB(High)、ウーファーが-6dB。
ポイントは、ベリリウム素材に匹敵する音速を有するという新素材「Zylon(ザイロン)」をすべてのユニットに採用することで、“3ウェイでフルレンジ再生のような音色の統一”を目指したこと。ヤマハではまずミッドレンジを最初に開発し、それにあわせてトゥイーターとウーファーの口径を決めていったという。なお最近はダブルウーファーの製品も多いが、安井によれば、同じ帯域を受け持つユニットを取り付けるとどうしても音がズレが出てきてしまうため、“音速を揃える”というコンセプトを優先して考えてウーファーは1基のみの搭載とした。
なお、Zylonは繊維素材であるため、そのままユニットに使用すると繊維同士のこすれる音が発生してしまう。そこでNS-5000では、500円硬貨などに使われる素材「モネル合金」をイオン化し、ビームでZylonの表面に真空蒸着させることで薄膜を形成。これによって駆動時にも素材自体のこすれる音を抑えるようにしている。金管楽器の華やかさをより良く表現できるようにした。
■筐体の鳴きや定在波について徹底的に対策
本機は、筐体の鳴きや定在波などノイズ要因をどう抑えていくかにも工夫を凝らしている。内部には、聴音パネルの考え方をベースに開発したJ字型の「アコースティックアブソーバー」を配置することで、定在波を抑制。これは、筐体をあえてスタンダードな箱形とすることで特定の帯域だけに強い定在波が出るようにして、その帯域だけをアコースティックアブソーバーで吸い取るという仕組みだ。
さらにトゥイーターとミッドレンジのユニットには、新開発のバックチャンバーを採用することで、ユニットの背面に出る音を吸収するようにしている。これらの工夫で、ユニットから出る音以外の付帯音・ノイズを徹底的に抑える構造としている。
ネットワーク基板にもこだわっており、表面の銅箔の厚みを通常の4倍ほどの140ミクロン厚にすることで、電流を流れやすくしてロスを減らしている。内部線材にはPC-Triple Cを新しく採用。ウーファー用のコイルは重たくて大きいので基板に乗せず、エンクロージャーの底板に4箇所ねじどめで固定。そのほか、ネットワーク部のパーツは独ムンドルフのコンデンサーやアッテネーターで組み合わせている。
さらにエンクロージャーの強度も追求。キャビネットには、国内産の無垢白樺素材畜層合板を採用。バッフル面は19層の31mm厚で、他5面は13層の21mm厚。ヤマハ伝統の三方留め技術で接合強度を高めた。また、厚み1.2mmで精度の高いピアノ塗装を施すことで、筐体の表面強度を向上させ、筐体の鳴きを抑えている。
また、本機はバスレフ型で、背面にはヤマハ独自のツイステッド・フレア形状のバスレフポートを採用しているが、このバスレフポートは一般的なバスレフ効果を狙ったものではなく、ウーファーを軽い振動板で制作したことにあわせて背圧を逃がすために設けたもの。
スピーカーターミナルはシングル仕様だが、これも全帯域で音速を一定にしたいというコンセプトにならい、ターミナルを開放しないというこだわりが現れている。
■録音された音がそのまま出ることを狙った。むしろ楽器に近いスピーカー
“新しいナチュラルサウンド”というコンセプトのもとで狙った音質について安井氏は、「録音された音がそのまま出ること」とコメント。「人の声なら、人体の中で声帯からお腹までを全部使って音を出しているという“エモーショナルなもの”をどこまで再現できるか。そういうことを突き詰めて設計した」とした。オーディオ的な脚色や演出をなくして、NS-5000自体に音質的な個性は持たせず、むしろ「楽器に近い存在」のイメージを狙ったという。
今回の試聴会でも、パイプオルガン演奏による『G線上のアリア』を再生した際には、“ペダルを踏む動きが見えるかのような低音の響き方”が聴き所として挙げられており、ただ音質だけではなく、楽器から音が出てくるときの空気感の再現性を含めてアピールされていたことが印象的だった。記者個人としても、ピアノ曲が再生されたときには、エスケープメント(ピアノの鍵盤を打鍵したとき、指にカクンという手応えが伝わる)の感触も含めて音色に乗っているかのような感覚を持った。
また、昨年の発表時から何度もチューニングを繰り返し、デモ機から音を変えていったことを踏まえての最大の進化ポイントは、ネットワーク部の調整をより突き詰めたことと、内部線材の種類を変えて最終的にPC-Triple C採用の線材を使用したこと。また、ユニットを固定させる部分に使用する接着剤の量をできるだけ抑えたことも、音質の変化に貢献しているとのことだった。
■NS-5000の全国キャラバンも実施中。サエクのケーブルプレゼントも
現在ヤマハでは、「できるだけ多くの人にNS-5000の音を聴いてほしい」という思いから、NS-5000の全国キャラバンを実施中だ。10月までの長期間で、全国を回っている。
また、NS-5000制約特典として、サエクのハイグレードスピーカーケーブル「SPC-850」をプレゼントする限定キャンペーンも実施。なお、SPC-850はNS-5000に使用されている内部線材と同じケーブルとなる。